紅花読書会

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「女子力」を教示する技法ー気持ちを切り替えるための「美しくなる努力」 方法論

2.「女子力」をいかに問うべきか

 

2-1.分析対象

 「女子力」と「美しくなる努力」の理解可能性を問うためには、いかなる対象を分析したらいいのか。私は、テクストで使用されている「女子力」について分析をおこなうことが、適切であると考える。

 なぜなら、近藤によれば「女子力」は主に雑誌で語られており(近藤 2014:p.1)、「女子力」がどのように理解可能なように説明されているのかを問うならば、実際に語られている場面を分析するのが、妥当だからである。

 

2-2. 「アクティブなテクスト」とは

 では、どのようにして、テクストにおいて、この「女子力」と「美しくなる努力」との結びつきの理解可能性を分析するのか。私は、ドロシー・スミスの「アクティブなテクスト」というアイディアをもちいて分析したい。

 上谷によれば、ドロシー・スミスの「アクティブなテクスト」とは、公的な文書やマス・メディアにおける言語使用のありかたを「テクストを読む」という実践の組織化のありかたとして捉えようするものである(上谷 1996:p.87)。「テクストを読む」という実践の組織化のありかたとは、「テクストを読む」という実践をひとつの「相互行為」として扱い、ある出来事が「客観的である」「事実である」ようにみえるということも、局所的に社会的に組織化された現象として考えるということである。上谷は、ある出来事が局所的な場面を超えて実在するように見えるのは、局所的な場面において言語が一定のやりかたで組織化されているからであり、そのような局所的な言語使用実践においてのみ成立することがらだと述べている(上谷 1996:p.88)。「アクティブなテクスト」においてスミスが目指すのは、あるテクストがこのように読めるということを報告するだけではなく、そのような報告がどのような言語使用実践において可能になるのかを合わせて明らかにすることであると上谷は主張している(上谷 1996:p.88)。

 テクストにおける「女子力」と「美しくなる努力」の理解可能性を明らかにすることを目的とする本稿にとって、そのテクストがどのような言語使用実践によって理解可能になっているかを問う「アクティブなテクスト」というアイディアは、適していると考えられる。

 そして、スミスの「アクティブなテクスト」によれば、「女子力」と「美しくなる努力」の結びつきの理解可能性を明らかにするには、その理解可能性が、局所的な場面で、どのような言語使用実践においてなされているのかを明らかにすることが、必要であるということである。

 

2-3.「想起のため」のデータ

 本稿では、『日経WOMAN』の女子力特集の一断片を分析するデータとして使いたい。それは、次の理由からである。

 近藤は「女子力」の意味を分析するさい、「女子力」に関する記事を100件以上収集した。間宮が指摘するように、近藤のような言語使用を収集するタイプの分析においては、データが恣意的に収集・使用されているとみなされないように、その提示の仕方を考えなければならない(間宮 2008:p.184)。近藤は、大宅壮一文庫の検索システムで「女子力」というキーワードで記事の収集をおこない、恣意性を回避しようとしていた。

 しかし、間宮は、「都合の良い」データを引き合いに出すやり方が求められる場合もあると主張している。われわれが読み、理解できる言語使用は、どのような仕組みから成り立っているのか。このような問いを探究する言説分析には、データ収集や使用に対する「恣意性批判」は当てはまらない。むしろ求められるのは、われわが言語使用をどのように理解しているのかをみやすいものとするのに、まさに「都合のよい」データなのである(間宮 2008:P.188)。

 研究対象としての言語使用を理解できるのはどういうわけかを、研究の読者に「想起させる」ためにデータを使用するというあり方である(間宮 2008:p.188)。

 では、「女子力」と「美しくなる努力」の結びつきの理解可能性を問う本稿にとって「都合の良い」データとは、どのようなデータなのだろうか。それは、2009年10月号の『日経WOMAN』の「『女子力』は、こう磨く! “脱オス化”宣言!」の記事である。それは次の理由からである。

 近藤の分析によれば、「女子力」の特徴は、「美しくなる努力」が社会的強制力としてのPBQ*1ではなく、仕事に対するモチベーションを高める手段として意味することであった。そして、その事例として下記の『日経WOMAN』の記事が引用されていた。

 “気持ちの切り替え”という意味では、メイクやファッションに気を配 ることも重要。『女子にとって仕 事モードへのまたとないリセット法がお化粧』(日経WOMAN 2009:p.10)。

  すなわち、この記事では、「女子力」が、仕事に対するモチベーションを高める手段として、「美しくなる努力」と結びついて語られているのである。近藤が、この分析は示すさいに、例として2009年10月号の『日経WOMAN』の「女子力」特集の記事を提示していることから、この記事が「女子力」と「美しくなる行為」について端的に理解できる記事であると考えられる。このことから、この記事が、本稿の問いにとっても「都合の良い」データであるといえるだろう。

 次の章では、この記事を分析し、「女子力」と「美しくなる努力」の結びつきが、どのような言語使用実践によって、理解可能になっているのかを明らかにしたい。

*1:

(注1)ナオミ・ウルフは、女性の「美しさ」が女性の雇用や昇進の条件となることを「美の職業資格(Professional Beauty Qualification)」と呼ぶ(wolf 1991=1994:p.40)。