『日常性の解剖学』は「エスノメソドロジー」と「会話分析」の基本文献である。 下記の4つの論文が収められている。サーサス以外の論文は、なかなか読むのに骨が折れるので、『ワードマップ エスノメソドロジー』を読んでから読むとおもしろく読めるだろう。
- ジョージ・サーサス「序論 エスノメソドロジー—社会科学における新たな展開」
- ハロルド・ガーフィンケル「日常性の基盤—当たり前を見る」
- ハーヴィー・サックス「会話データの利用法—会話分析事始め」
- エマニュエル・シェグロフ、ハーヴィー・サックス「会話はどのように終了されるのか」
サーサスの「序論」は、エスノメソドロジーの歴史や基本的な発想、方法、民族誌との違いなどについて平易に書かれている。エスノメソドロジーが、何を研究するものなのかがわかりやすく説明されている。エスノメソドロジーは、いったい何をしているのかがよくわからないという人は、これを読むと少しはエスノメソドロジーが何を明らかにしようとしているのかがわかるだろう。
エスノメソドロジーが研究するのは、成員たちがどういうやり方で行為や出来事を理解するのか、なのです。成員たちが、「信念」だとか「動機」という考え方を持ち出すなら、この考え方がどのように用いられているのか、それを用いることによって何が成し遂げられるのか、ということこそ、私たちの関心の的なのです。p21
エスノメソドロジストにとっては、成員たちが、たとえなんであれ何かを成し遂げようとするとき実際に用いる方法こそ「恐るべき謎」です。24
ガーフィンケルの「日常性の基盤」は、「背後期待」や「判断力喪失者」、「期待破棄実験」、「解釈のドキュメンタリーメソッド」などガーフィンケルのアイディアが詰まったものである。この論文を読んでいる最中、ガーフィンケルの学生は大変だったろうと何度も学生に同情してしまった。
・判断力喪失者
社会学者は、次の事実を認めているが、つねに軽んじてきた。つまり、成員たちは、他ならぬこの行為をするといったことより、まさに当の標準化を発見・生成・保持するのだとの事実である。このことを無視してしまうならば、社会科学者は、成員の安定した行為の性格やその条件を見誤ることになる。現に、彼らはそのような見誤りを招いており、その結果、社会の成員を文化的もしくは心理学的な、あるいは両方の判断力喪失者(judgmental dope)とみなしている。p76
〈共に知られている〉(背後期待の〕基盤が失われるやいなや、成員たちが知覚する現実の状況は「まったく無意味なもの」に化してしまうのある。理念的に言えば、このような無意味な状況に対する行動は、困惑・不明瞭・内面的葛藤や心理的・社会的孤立をともなうものであり、また急激な人格喪失のさまざまな兆候を示す名付けようのない不安をともなうのである。かくして、相互行為の構造は崩壊するだろう。p59
専門家は最初は赤の他人として接触を求められる。しかし、専門家は、自分が頼られて当然の者であることを示し、さらに自分の当場を唯一適切なカテゴリーに転化していくために、自殺志願者に対し、その人のかかえている困難は自分の専門領域に属するものであり、自分たちがそれを解決することができるのだということをわからせねばならない。そのようにして、自分たちに頼ることは不適切ではないということばかりか、さらに、Rpの成員には助けてもらうことができないということまで言うのである。p158
シェグロフとサックスの「会話はどのように終了されるのか」は、日常の会話においてどのように人びとがその都度、その会話を終了しているのかを「隣接対」を用いて考察している。*1この論文を読むと、ふだん自分が相手とどのように会話を終了させているのかがよくわかる。下の引用のように、こちらが終わりたいサインをだしているのに、中々会話が終了しないということはよくある。
終了は、一度開始されると不可避的に進行していくといった、型にはまった過程としては扱うことができないということである。むしろ、終了も、会話全体と同じように、会話進行中のさまざまな時点で、そのつど次がどうなるのかについての諸可能性の集合としてみなさなければならない。p232
- 作者: ジョージサーサス,ハーヴィーサックス,ハロルドガーフィンケル,エマニュエルシェグロフ,George Psathas,Harvey Sacks,Harold Garfinkel,Emmanuel Schgloff,北沢裕,西阪仰
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*1:シェグロフの会話の開始の分析は、2003, 「開始連鎖」 平英美訳『絶え間なき交信の時代』に載っている。